大判例

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東京高等裁判所 昭和32年(う)2380号 判決

被告人 国民相互株式会社 外一名

〔抄 録〕

論旨第一ないし三点について。

よつて考察をするのに原判示事実は、その犯行における被告人大西静雄の犯意(当裁判所は、犯意の成立に違法性の認識を必要とするという趣旨の所論はこれを採用しない)と共に、原判決挙示の証拠で明らかにこれを認めることができ、記録ないしは当審事実取調の結果によるも、原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認はなく、原審が、同被告人の原判示所為に関し、被告人等を貸金業等の取締に関する法律(以下単に貸金業法と称する)第十八条第二号、第七条の規定に従つて処断したことは同所為の態様に照らし正当である。

元来貸金業法第七条が、貸金業者において「預り金」をすることを禁止しているのは、終戦後における極度の失業、饑餓、困窮に喘ぐ資産も信用もない庶民大衆の資金護得の渇望に乗じほしいままに横行した庶民金融(いわゆる殖産無尽金融の如きはその一例である。殖産無尽金融も貸金業法施行以来一般に禁ぜられていることは貸金業法附則第四項、無尽業法第三条、第三十六条の規定によつて明らかである)における不特定にして多数に亘る他人からの、軈ては期間満了により相当多額の金利ないしは優待金名義等の対価を附して返済することの約旨を伴つた資金をもつてする金融業者倒産の続出による弱少出資者に対する数々のまことに不幸な事態惹起の事実に徴し、資本的に裏付のない金融業者が、不特定多数の他人からの資金で運営しようとする、経済界の変動によることのある場合は勿論、業者の放漫な経理や利慾に基く不公正な業態などの結果倒産等により善良な多くの出資者を忽ち貧窮の苦境に追い込む虞などのある金融方式を禁止して金融の健全な発達に資そうとするにあつて、貸金業者において自己資金又は親戚、知友その他極く少数の特定人の資金を利用するのは別論とするも、苟も、その貸付を行うについて、これに利用するために不特定多数の者から資金を受けるが如きは、その受入が、軈ては期間満了によりその資金と共にこれに対する利息ないしは優待金名義などの対価を附して返済することの約旨を伴なつたものであるかぎり、正に貸金業法第七条第二項にいわゆる「預金、貯金、掛金その他何らの名義をもつてするを問わず、これらと同様の経済的性質を有する不特定多数の者からの金銭の受入」として同法条第一項にいわゆる「預り金」をしたことに該当し、厳に同法条の禁止するところといわなければならない。記録ないし証拠によれば、被告人大西静雄の経営にかかる原判示被告人会社の貸金業に関してした被告人大西静雄の原判示所為は、自己資金充実の登録済会社資本にかかる株式の売買をもつてする、その実態において聊かの偽を伴わない株主相互金融方式とは異り、被告人会社にとつて聊かも自己資金の実質的増加とならないいわゆる「見せ金」ないしは被告人会社からの間に合せの融通金による株式払込の仮装手段にかかる架空に等しい会社資本の下に(このことは、原判示会社設立の際におけるいわゆる「見せ金」による株式払込の事実は勿論、僅かに八ケ月十三日という原判示犯罪行為期間中それまで資本を金五百万円であつたのを前後二十九回に亘る増資手続によつて合計一億四千五百万円というまことに莫大な会社資本の増額を行つている事実や、原判決がその末尾に証拠に基いて詳細に説明しているところによつても窺がえるように、原判示会社の設立及び右増資手続における株式払込を周る事情ないしは、所論にいわゆる株式相互金融方式にかかる株式譲渡金の取扱状況殊に原判示会社が、新株引受にかかる同会社役員のためいわゆる「見せ金の新株払込資金として間に合せに融通した金員ないしは一時その払込の「見せ金」として第三者から一時融通を受けた金員を同会社が返済したことに仮装した金員の償却手段として、いわゆる株式譲受人支出にかかる株式譲受金によつて償却する方法形式を採用した事実によつて自づから明らかである)株主相互金融と称して、全く実質の伴わない株式の売買名義をもつて株主の名称を得たにすぎない原判示不特定多数の者から、原判示それぞれの期間満了の暁には、元本のほかに、その者らの利慾をそそるにふさわしい優待費又は謝礼金名義の対価を附して返済する約旨で株式譲受代金、その立替金償還又は借入金名義の下に原判示金員を受け入れ、これを資金として貸付に利用する俗にいわゆる「他人の褌で相撲を取る」の類に属するまことに不公正な金融方式によつたものであることが明らかであつて、前段説明したところに照らし、その業態において業として貸金業法第七条の禁止する「預り金」をしたことに該当することいはうまでもない。

所論において、原審判決は、被告会社が原判示受入金の全額について優待費又は謝礼金を交付したものであるという趣旨の事実を認定判示しているとして事実誤認の主張をしているが、原判決は、原判文自体に徴し自づから明らかなように、所論主張のような事実を認定しているのではなく、受入元本使用の対価として優待費又は謝礼金名義の金員を附して交付する旨の約束の下に所論の金員の受入をした旨認定判示しているのであつて、而もこの事の証拠上明らかな本件において所論事実誤認の主張は採用するに由がない。

而して、被告人大西静雄の本件犯行時、大蔵省等の監督官庁等において、本件業態にかかる前示の如き金融方式を適法な株主相互金融方式として認容した事跡、従つてまたその認容の事実があつたことから被告人大西静雄においてそのように明らかに信じて本件所為に出でたものであることの事跡は記録上認め得られないところであり、仮に同被告人において原判示所為当時本件業態にかかる前示の如き金融方式が所論にいわゆる適法な株主相互金融方式であると信じてその所為に出でたものであるとするも、それは結局法の不知にかかり、それがため、原判示各犯罪の成立に必要な故意(当裁判所が、故意の成立に違法性の認識を必要とするという趣旨の所論を採用しないことはすでに冒頭に述べたとおりである)を阻却すべき筋合ではない。

所論における原判決の非難は、すべて、要するに、原審が原証拠の価値ないしは事実の認定について事理、経験の法則に従い判断したところと異る事実の想定を前提とし、又は貸金業法第七条の規定を正解せざるの誤に出でたものにかかり採用するに由がない。論旨は理由がない。

(三宅 河原 下関)

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